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『悪魔に赦しを乞え』


by yakumoMkII
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あの子の形見

これは怖いというよりも何かこう、せつなくなってしまう話なんですよね

私が小学生の頃に良く一緒に野球をしていたT君って子がいたんですが
T君はクラスでも1番といえるほどの野球好きでね
自分専用のバットとグローブを持っていた程だったんですよ

当時、自分のバットとグローブを持っていた子供ってのは
ほとんどいなくてね
大体が学校が貸し出しをしてる備品のものを使っていたので
それがすごく羨ましかったっていうのを今でも覚えていますよ

T君もとても大事に使っていましたし
宝物のように思っていたんでしょうね

ところが、ある日のこと
いつものようにみんなで野球をしていたら
だんだんと辺りが薄暗くなってきましてね
時間もいい時間になってきたし
そろそろ帰ろうやって事になったんですよ

周りの皆が次々と校門から表に出て行ってね
さて、自分も帰ろうかなと思って何となしにふっとグラウンドの方を見たら
隅っこの方にT君のバットとグローブが置きっぱなしになっていたんで
「あれ、珍しいなあ。いつも忘れずに持って帰るのになあ」
そう思って、さっき校門を出たばかりのT君を追いかけたんですよ

校門を出たら丁度、T君の姿が見えたんで
「おーい、バットとグローブ忘れてるよー!!」
って私、叫んだんですよね

するとT君は
「もういらないから、あげるよー!!」
って返してきたんです
で、そのまま自転車に乗ってダーっと走って行っちゃった

私ね、T君のバットとグローブを持ったまま
思わず呆然としちゃいましたよ
なんせ、貰えるなんて思いもしませんでしたからね

そのときはとりあえず家に持って帰ったんですが
あんなに大事にしてたものなのに、そう簡単に人にあげるもんかな
私そう疑問に思って

とりあえず理由を聞いてみようと
その日の夜にT君の家に電話をかけてみたんですよ

すると、T君のお母さんが電話に出ましてね
T君は亡くなったと聞かされました

帰り道、いつものように家の前の横断歩道を渡ろうとしたところ
左折をしてきたトラックに巻き込まれてしまったそうです

私はその事を聞いて、大変驚きまして
実はこれこれこういう訳でT君のバットとグローブを
持っているんですがとT君のお母さんに伝えました

T君のお母さんは悲しそうな感じでしたが優しい声で

「あの子はね、きっとあなたに使ってもらいたくて
バットとグローブを渡したんじゃないかな。
もし良かったらあの子の代わりに使ってもらえますか。」
そう言ってくれたんですよ

もしかしたらT君、自分がその日死ぬことを解っていたのかもしれません
それで仲の良かった私に自分の宝物を形見として渡してくれた
そんな気がしてならないんですよね

今でも私、そのバットとグローブを持ってまして
それを見るたびにT君と野球をやった事を思い出すんですよ
自分の宝物を使って嬉しそうに野球をしているT君の姿をね
by yakumoMkII | 2006-12-17 02:25 | 怪談